〜プライヴェート・オピニオン〜

エピローグ

|前のページに戻る| |PRIVATE OPINION トップページへ|
「あれから5年か・・・」

 シーラは、一口飲んだティーカップを置きながらそうつぶやいた。
 手元には、古ぼけた写真の束と、真新しい一枚の絵葉書が卓上を彩るかのように並べてある。窓の外の木々に目を移すと、黄昏を彷彿させるように、いつのまにか黄金色に染まっている。
 風に舞い散る黄金色の葉が、過ぎ去って行く時間を感じさせるようでシーラは、ため息をひとつついた。
 窓の外で、愛犬のフロッグが激しくほえ始めた。

「だーめ。ポッキーゲームは有料よ!」

 帰ってきた!そう思って、シーラは一目散に玄関へと向かった。

「ただいまーー」

 いつもと変わらない、元気な声が家中に木霊する。

「どうだった?」
「へへー、」
「何よ、受かったの?」
「これこれ、ジャーン」


 レインの手には、バークリー音楽大学講師合格と書かれた、証書がぶら下がっていた。
「おめでとー」

 わが娘を抱きしめるシーラ。

「いてて、ありがと。まっ、当然だけどね」

したり顔で言うレインに向かって
「あら、緊張して、昨日寝てないの誰だっけ?・・」

うっ、という顔をして家の中に飛び込むレイン。

「お腹すいちゃった」
「言うと思った・・」
「うわ、おいしそうなパンプキンパイ、作って待ってたの?」
「どうせ、何にも食べてないんでしょう。」
「当たり。さすがママ、良いカンしてる」
「手を洗ってから食べなさいよ」
「はーい」


 ふぅ、と安堵のため息を吐きながら、シーラはくすりと笑って扉を閉めた。


 パイをおいしそうにほおばるレインを横目に、新しく入れたシナモンティーを注ぎながら シーラは、一枚の手紙を差し出した。

「はい、あなた宛に」
「誰から?」
「合格通知とおなじくらい、待ってた人から!」
「え、ほんとに!」



 手紙のタイトルは、「親愛なる、家族へ・・。ウッド・スモーク」とかかれていた。

「やあ、レイン久しぶり。僕らは、いま、新しいアルバムの収録でニューヨークに来ています。

今日は、OFFなんでのんびりオープンカフェでこの手紙を書いています。
毎度のことながら、僕もほかのみんなも、相も変わらず元気だよ。

ジェシカは、毎度のことながら、忙しく飛び回ってる。

タイラーはこの町がすごく気に入ったみたいでHIP HOP喫茶4号店を出すって、さっき不動産屋に掛け会いに行った。

フランクは別れた嫁さんがミネソタにいるらしく、しぶしぶ昨日の夜から合いに行ってる。

ジャックは相変わらずヨーコとLOVE LOVEで、ディズニーワールドへ日帰りでつれてかれてた、顔は疲れ果ててたけど・・。

グッピーは、昨日ブロードウェイに芝居を見に行ってなんとスカウトされたらしいよ。
しかも、「コメディアンで!」
笑っちゃうよな。あははは。」

「みんな、元気そうね」
「そうだね。はぐ、はぐ」
「あんたね、食べるか、読むかどっちかにしてよ・・」


おもいっきりパイをほおばりながら、レインは手紙を読んでいく。

「それで、僕はというと・・・・
相も変わらず、みんなに何とかついていってる毎日さ!
だけどやたらと充実している日々を送ってる。

逢えなくなって、だいぶたつけど君はどんな日々を過ごしてるのかな。
・・・結構気になってます。

そうそう、アレンが残してくれた曲が今度アルバムに入ることになったんだ。
ロイドが、新しく作ったレーベルの第一弾だから、みんなも気合が入ってるみたい。
まぁ、実権を握ってるのは、結局セレナで、グローラント社の若社長がプッシュしてくれたから、実現したみたいだけど・・・。


僕は、まだまだアレンのようにはなれないけど、絶対、いつか彼を追い越せるようにがんばっていこうと思う。


だから、あのさ、そのときは君に・・、んー、やっぱやめた。逢ったときにきちんというよ。

そうそう、もうすぐ、君の講師試験の発表だね。きっと受かってると思うけど・・・。
ちゃんと勉強してた?」

「失礼ね。めちゃ、めちゃ、やったって言うの」
「それで?」


「まあ、心配要らないよね。君と正反対のママがついてるもんね。」

「だって、どーいう、意味よ!」
「あははは」


「収録が終わったら、いったん帰ろうと思います。
みんなもアレンの墓参りに、帰りたいって言ってるし。
近々帰ります。また、笑顔で会える日を・・・。

                                  ウッドより」

PS もうすぐ君のバースデイだね。プレゼントは何が良い?

「だって!」
「そっか・・・。」
「よく、私の誕生日、あいつ覚えてたわね?」
「忘れないんじゃない。大事な人の誕生日ですもの」
「そうかな?ちなみに、今日ってママ知ってる?」
「え?・・・・今日だっけ?」
「ほら、忘れてるー!」
「なんてね、知ってるわよ。部屋に行ってごらんなさい」
「え?プレゼントあるの!」
「見れば分かるわよ」
「ありがとー!」



 急いで階段を駆け上がり、部屋のドアを壊れるほど思い切りあけたレインの前に 飛び込んできたのは、机の上におかれた、ブルーの小さな箱と、古ぼけたベースだった。

「・・・・・」

「・・・二十歳の誕生日おめでとう」


静かな響きのある声が、後ろから優しくレインを包む。

「ママ、これ・・・」
「あけて御覧なさい」


 小さな箱には、きれいな海色の小さなオルゴールが入っていた。
静かに蓋を開けると、星が回り始めるように、メロディーが響き渡る。
 その中に小さな手紙と、指輪が見えた。

 20歳の誕生日おめでとう、レイン。

 この指輪は、僕が成人した君へと、買っておいたプレゼントだよ。

君も、僕の知らないところで、少女から、大人になったんだね。
君と過ごせた、8年間は、僕の宝物だった。

だから、僕は、君に感謝している。

本当の父親だって、思っていてくれた君に。

また、本当の父親にしてくれた、シーラとアレンに。

・・・感謝してる。

 僕は、もともと短命だった。
 仕事が忙しく、その短命に輪をかけたかもしれない・・。
だけど、僕の死は起こるべくして起こったことだったんだ。
だから、長い年月が経ったら悲しまないで。
忘れられたら悲しいけど、過去に縛られないで。
 僕は精一杯生きた。君というかけがえのない存在と一緒に、幸せな時間を過ごすことができた。

 血はつながっていなくても、僕らは親子だ。
そして、君は誰よりも愛しい僕の娘だ。
ありがとうを言いたくて・・・、

 でも照れくさくって、なかなか言えないから、手紙に残すよ。
君が成人するまでこの手紙は、シーラが隠していると思う。
そして、僕はその姿は見れないと分かっている。

 願わくば、僕たちの娘が幸せに自分自身を見失わないよう、精一杯生きていけるように。

        スミス・バーンズより  愛するレイン・バーンズへ  


 いま、フラッシュバックする。あの運命のロックフェスティバルの日が。
アレンの瞳が・・、優しく物語っていた言葉の数々が何を意味していたのかを・・・・。

「彼は・・、アレンは、自分が選んだ道で私たちを傷つけた。その代償は、何も言わないこと。それがあなたを愛して育ててくれたスミスへの恩返しだって・・・最後まで、あなたには話そうとしなかった・・・。」

 胸に仕舞いこんでいた、思い出と感情の数々が一気にレインの瞳から溢れ出す。
とめどなく、溢れ出す涙を隠すように、シーラの胸に顔をうずめ泣きじゃくるレイン。

「私は幸せよ、最愛の人を・・二人を無くしても、あなたがいたから・・・ 二人の優しさが、あなたの中で生きているから・・・」

 静かにオルゴールの澄んだ音色が、響き渡る。
 秋風のささやきと、満天の星屑が降り積もるように・・・・。

ガタン


不意に、大きな物音がして、シーラとレインはびっくりして窓を覗き込む。

 「いってー、押さないでくださいよ。何でみんなまでついて来るんスか?」
 「馬鹿、今日はレインの二十歳の誕生日だろ。俺たちにとっても特別なんだよ」
 「なんですかそれ?大体タイラーさん、プレゼント持って来てんですか?」
 「持ってるよ。ほら、俺様のニューヨーク版、特大パネルだ!」
 「・・・・・イラネーだろそんなもん」
 「うるせーな、じゃあお前は、何もって来たんだよ!」
 「俺はお前とは違うんでな。大人の女がほしがるもんだよ!」
 「なんだよそれ?」
 「ヨーコが選んでくれた、YES・NO まくらだ!」
 「いらねーよ!お前んとこだけだろそんなの!」
 「なにー!」
 「どっちもいらねーよ」
 「うるせー、逃げた嫁さんに呼ばれて、わざわざミネソタくんだりまで行かされてる お前に言われたくねーよ!」
 「嫁さんは、カンケーネーだろ!」
 「ちょっと、やめなさいよ!」
 「ウルセー、コメディアン」
 「なんですってー!」
 「・・・・ちょっと、呼び鈴押すか、どーか早く決めてくださいよ」
 「今、それどころじゃねーんだよ!すっこんでろ、この若造・・はっ、ショーン ・・・じゃなかった。若社長、いつからそこに?」
 「始めからいたよ!何やってんだよ玄関先で!」
 「社長こそ、何でここに?」
 「セレナが声掛けてくれたんだよ。誕生パーティするからって!」
 「マジかよ・・、セレナのやつ・・」
 「ウッド君、何か?」
 「いや、別に、あははは」
 「俺が先に、渡すんだよ。この特大パネルを!」
 「嬉しくねーんだよ。カリメロ頭!娘の貯金返せよ!」
 「返したわ!何年たってると思ってんだよ!」

 「ガタン」と扉が開き、あきれ顔のシーラが腕組みをして立っている。

「何やってんの・・あんたたち・・」

 やばい顔つきで、気まずそうな一同たち。うつむき加減で照れ笑いし始める中、 少し目を腫らしたレインが、みんなを階段から見下ろしながら笑い出す。

「・・・ありがとうみんな・・」

集まった仲間の声が、賛美歌のようにこの美しい島に木霊する。

Happy Birthday Rain!


・・・どんなに時が流れても、たとえ自分の存在が消えてしまっても・・

僕らは同じ時間の中を生きられる

すべては紡がれ、交わって行く

未来を見ていた大人たちへ




Fin


|上に戻る|

|PRIVATE OPINION トップページへ|